財務諸表とは決算期に開示される「会社の成績表」で一般的には「決算書」とも呼ばれます。会社の儲けや経営状態などがわかるので、投資家にとっては投資先を判断する際の指標となります。
特に貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書は「財務三表」と呼ばれており、それぞれ経営状態把握のためには欠かせない書類です。
本記事では財務諸表の目的や種類、分析方法などについて解説します。
※個人投資家から事前に募った質問もございます。
目次
01.
財務諸表とは
02.
財務諸表の目的とは
03.
財務諸表の種類と読み方
04.
財務諸表の4つの分析手法
05.
財務諸表を正確に分析して経営状態を把握しよう
財務諸表とは
財務諸表は会社に関わる全ての利害関係者に対し、会社の1年間の業績や財務状況を知らせることを目的として作られる書類です。株主や銀行、取引先、投資家などにとっては、経営状態を把握できれば今後もその会社と関わっても大丈夫かを判断できます。
財務諸表は金融商品取引上の呼称であり、会社法では計算書類と呼ばれています。
株式会社は年次決算で財務諸表の作成が義務付けられており、上場企業の財務諸表は有価証券報告書や決算短信などから確認することが可能です。
財務諸表を読み解くことで投資にあたって把握しておきたい、会社の経営状態や資金繰りの状況、利益率などがわかります。
財務諸表の目的とは
財務諸表は企業の各利害関係者にとって、以下のような意味があります。
- 投資家:投資をすべきかどうかを判断するために使う
- 株主:投資を継続してもよいか、投資先の経営状態の把握に使う
- 従業員や取引先:今後も会社にいてよいか、取引を継続してよいかの判断に使う
- 債権者:融資や売上債権の回収ができるかを判断するために使う
- 税務局:課税の源泉の利益が過剰、過少でないか、税の申告、納付額が正確かを判断するために使う
財務諸表の種類と読み方
財務諸表を構成するのは主に以下の書類です。書き方は会計基準によって定められています。
- 損益計算書
- 貸借対照表
- キャッシュフロー計算書
- 株主資本等変動計算書
- 付属明細表
財務諸表の中でも特に重要な書類として財務三表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)があり、これらは投資家にとって会社の経営状態を把握するために欠かせない書類となっています。
財務諸表を構成する損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書、附属明細表の役割や読み方、特に確認すべき項目について解説します。
損益計算書
損益計算書は、会社が1年間に稼いだ金額や使った費用をまとめて記載した書類です。会社の利益を確認することができ、売上からかかった費用を引くことで利益額を算出しています。そのため、財務三表の中では特にわかりやすい書類です。
英語では「Profit & Loss Statement」という言葉で表されるので、これを略して「P/L(ピーエル)」と呼ばれています。
では、損益計算書からは何が読み取れるのでしょうか。
何がわかる?
損益計算書からは会社がどれだけの利益を出せているかを把握することができます。具体的には以下の利益がわかります。
- 売上総利益:売上から仕入れ原価を引いた利益。会社の稼ぐ力がわかる
- 営業利益:営業活動のための費用も含めた利益。会社が本業で稼いだかがわかる
- 経常利益:本業以外の収入や支出も含めた利益。通常時の利益がわかる
- 税引前当期利益:税金が引かれる前の利益。会社の利益がわかる
- 当期純利益:税金を支払った後の利益。最終的な会社の利益がわかる
上記を読み解くことで「会社がどのくらい儲けており、そのためにどれだけの費用がかかったか」「会社が何から儲けているか」「事業がどう変化したか」がわかります。
投資家にとっては詳しい利益構造の把握になり、投資をすべきかどうか・投資を続けるべきかどうかの判断に活かせるのです。
確認したい項目
損益計算書を読み解く際は特に「営業利益」と「経常利益」に注目しましょう。
営業利益からは本業で稼げているかを見極められ、経常利益からは本業以外の借入金や投資による支出が、本業に悪影響を及ぼしていないかを読み取れます。これらが赤字だったり過剰な金額だったりする場合は、投資を控えたほうが良いでしょう。
貸借対照表
貸借対照表は企業の保有資産と借金、純資産の状態を示す書類であり、会社の持ち物から現在の財務状況を表しています。資産や借金の状態を示しているので、会社が倒産しないかどうかを判断するために活かすことが可能です。
英語では「Balance sheet」と呼ばれており、それを略して「B/S(ビーエス)」と表記されます。貸借対照表から分析できることは以下のとおりです。
何がわかる?
貸借対照表からは会社の資金の調達・保有・運用状況を知ることができます。書類の左側に資産・右側に借金と純資産が記載され、財政状況をすぐに判断することが可能です。
具体的には以下の事柄がわかります。
- 会社の資金運用が順調かどうか
- 債務の返済能力は十分にあるか
- 倒産のリスクがあるか
- 利益を効率良く得ているか
- 保有資産の内訳はどうか
財政状況を詳しく見ることができるので、投資後に会社の経営が傾く可能性や倒産する可能性があるかを判断できます。つまり、投資のリスクを抑えるために活用できるのです。
確認したい項目
貸借対照表を読み解く際は、「売上高純利益率」や「売上高営業利益比率」、「売上高経常利益比率」に注目しましょう。
- 売上高純利益率:値が高いと収益性の高い商品を提供していると判断できる
- 売上高営業利益比率:値が高いと本業で利益を生んでいると判断できる
- 売上高経常利益比率:バランスのとれた経営状態であるかが判断できる
上記3つを重点的に確認することで、企業の将来性を判断しやすくなります。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は会社のお金の流れを示す書類であり、それぞれ「営業活動」「投資活動」「財務活動」の視点から経営状態を分析できます。
損益計算書と貸借対照表だけではわからない、黒字倒産の可能性を判断する材料になる書類のです。
キャッシュフロー計算書は以下の3つで構成されており、それぞれを確認することで会社のお金がどこから来て何に払っているかがわかります。
- 営業キャッシュフロー
- 投資キャッシュフロー
- 財務キャッシュフロー
以下、読み取れることと確認したい項目を解説します。
何がわかる?
キャッシュフロー計算書から分析できることは、以下のとおりです。
- 会社の経営状態
- 会社の戦略
- 倒産のリスク
まず、営業キャッシュフローは会社の本業で稼げた現金を示しており、この値がプラスであれば会社の資金が豊富であることを示しています。
投資キャッシュフローは会社がどんなことにお金を使ったかがわかり、この値がプラスであれば資産の売却をして現金を得ている状態です。逆にマイナスであれば積極的な設備投資がされています。
財務キャッシュフローは会社が資金を調達した方法を示しており、調達した金額が返済額よりも多い場合はプラス値になり、調達金よりも支払った金額が多い場合はマイナスになります。
経営状態と倒産のリスクの把握は、投資先の選定のために重要な判断材料なので必ず確認しましょう。
確認したい項目
キャッシュフロー計算書で特に確認したい項目は以下のとおりです。
- 投資キャッシュフロー
- 固定資産の取得による支出
- 売上債権債務の増減額
- 仕入債務の増減額
- 棚卸資産の増減額
投資キャッシュフローが営業キャッシュフローの金額の範囲内であれば、積極的な投資がされていることがわかります。同じく固定資産取得の支出も投資活動の積極性を見るために活かすことが可能です。
5〜10年間のキャッシュフローを見比べることで、長期的な投資活動がどうなっているかを確認できます。
売上債権の増減額の値が多ければ、売掛金の未回収分が多いことを意味するので、資産が減少していることが確認できます。仕入債務の増減額の値が多い場合は仕入れ代金の多くが未払いで、棚卸資産が多い場合は在庫の数が多すぎることを読み取ることが可能です。
上記の値からは企業が投資活動に積極的か・経営状態が良好かを確認できるので、投資先を選定する際に役立てられます。
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は企業の純資産の変動を詳しくまとめた書類であり、貸借対照表の純資産の変動額とその理由を項目ごとに詳細に記載します。
英語では「Statements of Shareholders’ Equity」と呼ばれており、その頭文字を取って「S/S」と表記される書類です。
企業の決算期には必ず作成する書類であり、株主資本の変動の様子を一覧できるように仕上げられます。株主資本の増減理由を項目ごとに振り分けており、純資産の主な項目は大きく分けて資本金、新株予約権、資本剰余金、利益剰余金などです。
何がわかる?
株主資本等変動計算書からは、株主資本の情報や会社の利益額などが読み取れます。
例えば、当期純利益の項目には損益計算書で算出された金額が入るので、最終的な会社の利益額を確認することが可能です。そのため、損益決算書と同様に会社の収益性を確認して投資の判断につなげることができます。
他にも以下の事柄がわかります。
- 会計期間中に実際に株主に支払われた金額
- 有価証券評価差額金の増減
- 繰延ヘッジ損益の増減
この書類には剰余金の配当という項目があり、会期中に獲得した利益のうち「繰越利益剰余金」とされたお金から、株主へ分配される金額が記載されます。つまり、この項目を見ることで株主へ支払われた配当金額が確認できるのです。
付属明細表
付属明細表とは他の財務諸表の内容を補足するための書類であり、それらに記載された重要項目の明細を記載したものです。主に以下の事項を記載するようになっています。
- 有形・無形固定資産の明細:企業がもつ固定資産の内訳
- 引当金の明細:貸借対照表に記載した引当金の内訳
- 社債の明細:銘柄ごとの発行総額や当期増減額など、企業が発行した社債の内訳
- 関係会社有価証券の明細:株式や債券などの内訳
- 借入金等明細:長期と短期に分けた企業の借入金の内訳
付属明細表は14種類あり、上記以外にも補足事項が必要なケースでは、項目ごとの明細表を作成します。
財務諸表の4つの分析手法
財務諸表の数字をもとに、会社の企業の収益性・安全性・生産性・成長性を分析することで、投資をしても問題がないかを判断しやすくなります。
分析する内容によって以下の4つの手法が存在します。
安全性の分析
安全性の分析では会社の支払い能力がわかるので、経営状態が安全であるかが判断できます。主に貸借対照表を使って分析します。倒産する可能性もここから判断できるので、投資先を選定する際に行っておきたい分析です。
安全性分析には、以下のような指標が用いられます。
流動比率
短期の支払い能力を図る指標です。
流動比率は、流動資産÷流動負債で算出します。数値が高いほど安全性が高いと判断でき、一般的には120%を超えていれば健全だとされています。一方、100%を下回る場合は流動負債が流動資産よりも多くある状態のため、支払い能力に不安があると考えられます。その他の指標も併せて慎重に判断するようにしましょう。
固定比率
会社の保有資産のうち、固定資産がどのくらいの割合を占めているかを示す指標です。
固定資産とは会社の決算日から1年以内に現金化されない資産を指し、主に建物や土地・備品などで構成される「有形固定資産」と商標権や営業権などの「無形固定資産」で構成されます。
固定費率は、固定資産を自己資本で割った値に100を掛けて算出でき、この数値が高いほど経営の安全性が高いことを意味します。一般的には100%以下であれば固定資産が自己資本で維持されていることになるので、経営の安定性が高いと判断が可能です。
ただし、企業経営における借金を計算上は無視しているので、100%を上回る場合は自己資本に固定資産を加えた固定長期比率も加味する必要があります。固定資産÷(自己資本+固定負債)×100で求められるこの値が100%以下であれば、安全だと判断可能です。
自己資本比率
会社の総資本のうち、自己資本の割合を示す指標です。
総資本のうち、返済の必要がない資本がどれだけの割合を占めているかを表しているので、この比率が高い会社は財務状況が安全だと判断できます。
自己資本比率は自己資本を総資本で割り、100を掛けて求められます。目安は40%であり、50%の場合は財務の安全性が高いです。反対に危険なのが20%以下のケースであり、このような場合は自己資本よりも債務が多い状態を意味します。
安全性が高い場合は投資先として検討対象に入りますが、企業の支払能力が低下しているときは、投資先としてリスクが高いことを意味しています。
収益性の分析
収益性の分析では会社がどれくらいの利益を出しているかを分析でき、利益比率から利益を確認します。比率を確認することで企業資本が利益を出しているか、それは効率的かを判断することが可能です。
分析の指標となる比率は以下のとおりです。
資本利益率
会社の資本を使ってどれだけの収益を得たかを示す指標です。この割合が高いほど費用を抑えた状態で効率的に利益を出していることを示しています。
収益性分析に用いられる資本利益率には、会社の総資本を用いて得た利益を示す総資産利益率と、自己資本で効率的に利益を出せたかを示す自己資本利益率があります。
- 当期純利益÷総資産(純資産+負債)×100(%)=総資産利益率
- 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)=自己資本利益率
前者は一般的に5%以上、後者は10%から20%ほどが良好な値です。
売上高利益率
売上高に対する利益の割合を示す指標であり、損益計算書の各利益値を売上高で割って100を掛けることで求められます。
業種によって適正値は異なりますが、経済産業省の企業活動基本調査では各利益率の年平均値が報告されており、こちらによると平均で3.2%ほどです。
売上高費用率
売上高に対する費用の割合を示す値であり、それぞれ売上原価や販売費・一般管理費、金融費用÷売上高に100を掛けることで算出できます。
適正値は業種や費用の種類によって異なるので、平均値は業種の規模や費用の種類などから求めるようにしましょう。
資本回転率
総資本を使うことによって、どれだけ効率よく売上高を生み出せたかを示す指標です。会社が資本を効果的に使えているかを表しており、回転率の回転とは投資して商品を販売し、お金を回収するまでのサイクルを意味します。
売上高÷総資本で算出でき、回転率が良好かを判断する目安となる値は1.0で、これよりも値が大きい場合は効率的に資本を動かせていますが、小さい場合は効率が悪いことになります。
損益分岐点
売上高を生み出すためにかかる費用を売上で補え、損益が0になるという売上高のことを指します。売上高が分岐点を超えれば利益があり、下回れば損失があることになります。
算出するには、まず費用を材料費や仕入原価からなる変動費と人件費や宣伝費からなる固定費に分けます。売上高から変動費を引いた値(限界利益)÷売上高で、限界利益率を求めた後、これを固定費で割ることで求められます。
収益性を見るには、売上高が損益分岐点とどれだけかけ離れているかを示す損益分岐点比率を、損益分岐点売上高÷実際売上高×100で算出しましょう。この値が80%以下であれば赤字に強いということが分析できます。
高い利益を出している会社であれば、配当金の金額も多くなる可能性があるので、投資の判断につなげられます。
成長性の分析
成長性の分析は会社がどうやって成長してきたか、会社が今後も成長する可能性があるかを見る手法です。分析の指標となるのは損益計算書であり、売上や経常利益などを確認します。
前期の売上高に対する当期の売上高の割合を示す増収率や、前期利益に対して当期の利益の割合を示す増益率を確認することで会社が成長しているかを判断する指標にできます。
増収率は当期売上高-前期売上高÷前期売上高に100を掛けることで算出でき、増益率は当期経営利益÷前期経営利益から1を引くことで求められます。これらの値が高い会社の場合は成長していると言え、投資先として有望です。
生産性の分析
生産性分析は、「ヒト・モノ・カネ」などを効率よく活用した経営ができているかを分析する方法です。売上や企業価値にそれらがどれだけ影響しているかも確認できます。
指標となるのは主に貸借対照表であり、企業の社員1人あたり・製造機1台あたりの労働生産性や労働分配率などを確認し、経営資源を効率的に活用できているかを判断します。
特に付加価値労働生産性は、働き方を改善することで生産性の効率がよくなったものを示しています。売上高から売上原価を差し引いた付加価値額÷従業員数でこの値を算出でき、従業員一人あたりが付加価値を生み出すため、どれほど効率的に働けているかを分析することが可能です。
生産性が高いと今後も売上が伸びていくと考えられるので、有望な投資先の候補になるでしょう。
財務諸表を正確に分析して経営状態を把握しよう
財務諸表は会社の経営状態や財務状況、どこから資金を調達したかなどを読み取れる書類です。そこから会社の将来性や収益性、倒産の可能性などを分析し、投資先を選ぶ際に活用できます。
具体的には貸借対照表で資金の調達方法と運用方法を知り、損益計算書で利益が生み出される方法を確認し、キャッシュフロー計算書で資金の流れを把握して判断します。
最初は複雑な内容に苦慮するかもしれませんが、数値から大まかな内容だけでも読み取ることができれば、投資に成功する可能性を上げられるでしょう。
財務諸表を活用して有望な投資先を選定し、投資を成功へと導きましょう。
情報提供:財務諸表とは?基本知識や読み方、分析方法を初心者に向けて解説
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投資の知識2022.11.22
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投資の知識2022.11.18
グロース株とは?バリュー株との違いと見つけ方
投資の知識2022.11.18
初心者でもわかるファンダメンタルズ分析の基本。有望な株式銘柄を選ぶには
投資の知識2022.11.18
株式投資で失敗するパターンはこれ!原因と失敗しないポイントを解説
投資の知識2022.11.11
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投資の知識2022.10.20
出来高とは?株価との相関関係はあるの?
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投資の知識2022.09.05
株式会社インティメート・マージャー FY2022Q2
決算サマリー2022.05.16
株式会社JDSC FY2022Q3
決算サマリー2022.05.13
株式会社アイリッジ
企業基本情報2022.02.24
株式会社インティメート・マージャー FY2021Q4
IRインタビュー2022.01.19
株式会社アイリッジ FY2022Q2
決算サマリー2021.11.28
ピクスタ株式会社
企業基本情報2021.11.26
ピクスタ株式会社 FY2021Q3
決算サマリー2021.11.26